みなかみ発の「起こり」を伝えるWEBメディア/「GENRYU」編集部を訪ねて

群馬県の最北端に位置するみなかみ町。関東圏を流れる利根川の源流を有し、ユネスコエコパークにも認定された豊かな自然が楽しめる観光地として知られています。

新幹線で東京まで約1時間という好立地にあり、最近ではコロナ禍による地方移住やリモートワークの拠点としても注目されるように。移住者と町民、都市と山間部のカルチャーが交ざり合う、ユニークな地域づくりが進んでいます。

そんな町の変化を伝えるWEBメディア「GENRYU(ゲンリュウ)」が、今年1月に立ち上がりました。

どんな人たちが、どんな思いで作ったメディアなのか―。編集部の澁澤健剛さん(41)、もりやまよしえさん(33)、湯浅大輔さん(39)、中島あづささん(34)を訪ねて、話を聞きました。

※掲載写真は雪上ミーティングの様子です。「GENRYU」編集部提供

ソーシャルディスタンスを考慮して、編集ミーティングはみなかみの屋外かオンラインで行っている

―「GENRYU」を立ち上げたきっかけは?

澁澤さん 言い出しっぺは自分です。出身は群馬県伊勢崎市ですが、みなかみが好きすぎて、2018年春に家族で移住しました。

みなかみの魅力は、何といっても自然豊かな風景。特に好きなのが谷川岳です。いつか「谷川岳にまつわるローカルメディアをやりたい」という思いはありましたが、なかなか着手できずにいました。

今やろうと決めたきかっけは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が大きいです。ほかの観光地同様に、みなかみ町の旅館や飲食店も客足が遠のくなど大きな打撃を受けています。

地元のために、自分にできることは何か―。昨夏から考え続けてきましたが、大好きなこの町の魅力を自分たちで発信することに思い至りました。

そしたら、利根川の源流にちなんで「魅力ある人の『起こり』を伝えるWEBメディア」というアイデアが「降りて」きたんです(笑)

「GENRYU」をプロデュースする澁澤さん。みなかみが大好きで、はしゃぐのも好き

澁澤さん 編集チームのメンバーは、みなかみに関りがあって、本業で編集やデザインの仕事をしている、その道のプロたちです。

「みなかみのこと好き?」と聞いたら、みんな「好き」というので、「じゃあ(WEBメディア)やろうよ」と誘って(笑)。

昨年12月中旬くらいにアイデアを伝え、約2週間でサイトを立ち上げ、1月1日にWEBメディア「GENRYU」を創刊しました。

創刊から1カ月のユニークユーザー数は4000UUほど。半径20キロ圏内の地元の人向けに立ち上げたメディアですが、実際は半数は地元、半数は首都圏を中心に海外からも訪問があります。まだ始めたばかりですが、思いのほか反響があり驚いています。

「GENRYU」のサイトトップ画像

―編集チームは全員、みなかみ町に住んでいる?

湯浅さん すいません、自分はみなかみ町民ではありません(笑)。みなかみの印象は子供の頃に登った谷川岳ぐらいで、その魅力にどっぷりはまったのは大人になってからです。

群馬県前橋市の広告会社でデザイナーをしていて、仕事を通じてみなかみ町の観光活性化に関わるように。現在もみなかみ版DMOの専任デザイナーを務めていますが、みなかみに関わる仕事は本当に楽しいです。

人も魅力的だし、水もきれい、ご飯もおいしいですし。プライベートでも足繫く通っています。

「GENRYU」デザイナーの湯浅さん。仕事で煮詰まった時も「みなかみとの関りが心の支えになった」そう

湯浅さん 「GENRYU」を立ち上げる前段階で、編集チームのメンバーとは、上越線土合駅(みなかみ町)にグランピング施設をつくる「DOAI VILLAGE(ドアイビレッジ)」プロジェクトで一緒に仕事をしています。

澁澤さんの会社が全体プロデュースで、もりやまさんがライティング、自分はポスターをはじめデザイン関係を担当しました。この仕事をきっかけに「GENRYU」の編集チームが集まり、自分も創刊に関わることになりました。

もりやまさん 私はみなかみ町在住ですが、出身は広島県です。東京に就職して7年ぐらい働いていたのですが、都会につかれてしまって(笑)。

関東圏でガラスに関わる仕事ができる場所を探して、当時縁もゆかりもなかったみなかみ町に移住しました。そんなに長く住む予定ではなく、旅をする感覚で移り住んで、もう3年になります。

「GENRYU」ライターのもりやまさん。澁澤さんとともに、取材活動の中心メンバー

もりやまさん 「DOAI VILLAGE」のプロジェクトには、地元のライターとして参加しました。みなかみエリアの観光情報をまとめた冊子をつくるため、町内の商店主や飲食店を取材したのですが、皆さんとにかく魅力的で、面白くて。短い文章量では語りつくせない(笑)。

「GENRYU」でインタビューした方は、「DOAI VILLAGE」の取材で一度お会いした人や自分たちが魅力的だと思う人たち。その人の活動だけでなく、きっかけになった出来事や思いを深掘りして記事にしています。

「GENRYU」の記事はクライアントありきの仕事ではないので、自分の好きなように書いています。自由に書いているのに、不思議と記事がきっかけで仕事につながったりすることも。地域のために、楽しみながらやっているだけなのですが。

企画編集ミーティングの際の一コマ

―皆さん本業があるということは「GENRYU」はボランティアで運営している?

澁澤さん 地元貢献が目的なので、このサイトで収益を上げることは現時点で考えていません。編集メンバーも無報酬ですが、地元に貢献できて楽しいからやっています。

コロナ禍で働き方や価値観が変化し、お金に対する価値が相対的に下がっている感覚があります。この活動でも、稼ぐのはお金ではなく、別の「豊かさ」だと思っています。将来的にキャッシュポイントをつくるにしても、広告モデルや掲載料とは違う形を模索したいですね。

そもそも、メディア運営は、みなかみという地域を深く探求するための手段の一つです。ローカルメディアという装置を通じて、地域にどんなアクションを起こせるのか。仕事のようで仕事でない、社会実験のような気持ちで、楽しく取り組んでいます。

「遊ばないと地元の魅力がわからない」ということで、ミーティングと言っても半分は遊んでいるそう

―まだ始まったばかりの「GENRYU」ですが、このメディアを通じて一番伝えたいことは何ですか。

澁澤さん 「GENRYU」というサイト名は、利根川の「源流」からきています。源流は川の流れのみなもと、つまり「物事の起こり」を意味します。

「GENRYU」は瞬間的な情報ではなく、みなかみに住む人の物語と、その物語が生まれたきっかけ(起こり)を伝えるメディアです。いろいろな人の「起こり」の物語に触れることで、読む人が共感し、勇気づけられるような記事を増やしていきたいですね。

澁澤さんがディレクションし、それを湯浅さんがデザインした「GENRYU」のロゴマーク

澁澤さん もしかしたら、記事をきっかけに「自分もやってみよう」と起業したり、移住したりする人が出てくるかもしれない。一つの「起こり」から、また一つの「起こり」が生まれる。そんな循環を生み出す「水路」を設計するのが、自分の役割だと思っています。

一滴の水が川になり、やがて海にそそぐように、ここで暮らす人々の豊かな物語を一つ一つ記録し、子供たちが暮らす未来へ伝えていく必要があります。

自分の子供たちが大人になった時、「みなかみが好き」と言えるような文化資源を次世代へと引き継いでいく―。それが今ここに生きる、私たち大人がやるべきことではないでしょうか。

(取材日:2021年2月2日、聞き手:いまここエディター 和田早紀)

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