日常を離れて心と体を解放する「リトリート」という過ごし方が注目されています。
「リトリート」とは「退去・隠れ家」などの意味があり、「自分を見つめなおす時間」として、瞑想や森林浴、食事などざまざまなスタイルの楽しみ方が提案されています。
目次
リトリートを通じた「森と人の再生」
最近は、群馬県も豊かな自然や食文化を生かして「リトリートの聖地化」を目指しているとか。
2022年6月上旬、みなかみ町藤原地区・「上ノ原(うえのはら)入会(いりあい)の森」で開催された「ワンデーリトリート」に参加し、森と自分が溶け合う不思議な感覚を体験してきました。
主催は、コーチングを学ぶメンバー4人でつくる団体「TWILIGHT(トワイライト)」。
みなかみ町在住で林業に携わる柳沼翔子さんを含め、メンバーはコーチングや人材育成の仕事に関わった経験を持ちます。
翔子さんは「人と自然の再生が同時に起こる」というビジョンの下、林業を通じて森を生かし、そこでリトリートに訪れた人も再生していく姿を理想としています。
その思いに共感するメンバーとともに、森で自分との対話を深める「リトリート」を定期的に開催してきました。
人と自然が共存する里山「上ノ原」
会場となった「上ノ原」は、みなかみ町藤原地区にあります。
上越新幹線の上毛高原駅(みなかみ町月夜野)から車で1時間弱。
広大なススキ野原やミズナラの林などを有し、市民団体「森林塾青水」によって管理されてきました。
利根川流域の市民によって手入れされた森なので、自然豊かではありますが、安心感のある里山という印象です。
今回のリトリート体験には、トワイライトも参加する読書会のメンバーを中心に、県外の男女約20人が参加しました。
森に入る前に、まずは参加者同士で「リトリートに参加した理由」を語り合いました。
きょう、何を求めて森に入るのか。
自分の気持ちを言葉にすることで、きょうの体験で得たいことを具体的にイメージできました。
音や手触り、五感を解き放つ準備
次に、翔子さんの導きで「五感を解放する」時間に。
地面に寝転がり、手のひらやほほでススキや土の感触を確かめます。
目を閉じると、急に、周囲の音が大きく感じられました。
サワサワと木が風になびく音、川のせせらぎ。
しばらくすると、山地に生息する「エゾハルゼミ」の「ケケケ…」とカエルに似た鳴き声も聞こえてきました。
普段の生活では注意して聞くことのない、自然の発する複雑で小さな音たち。
会社でパソコンに向かってばかりの日々から、遠く離れた場所に来たと実感しました。
心を整えた後、いざ森へ。この日は雨が降ったりやんだりの天気で、森はしっとりとした湿気に包まれていました。
ミズナラ林の「きこり体験」
ミズナラの林に着いた後は、「森林塾青水」代表、北山郁人さんの指導で「きこり体験」を。樹木の一部にみんなで少しずつ刃を入れて、木を伐る感触を確かめました。
最後は北山さんがチェーンソーで伐り倒し、「メキメキ」という迫力ある音に参加者からは「すごいっ」と歓声が上がりました。
北山さんの解説で印象に残ったのが、「年輪の傷」のエピソードでした。
丸太の年輪はきれいな円ではなく、中心部分にゆがみがありました。北山さんによると、そのゆがみは若木のころについた傷が原因とのこと。
見た目にはきれいに見えても、内側には消せない古い傷がある―。人も木も生の営みは同じなんだな、と妙に納得してしまいました。
体を動かした後は近くの古民家で、地元食材を使ったお昼ご飯を。
囲炉裏の炭火がほのかに暖かく、雨でぬれた体を癒してくれました。
酵素玄米ごはんに、地元でとれた野菜を使った滋味あふれるお弁当…。
作っていただいた「スミカ リビング」さんに感謝です。本当においしかった‼
樹木の根元で「わたし」と向き合う
午後は、参加者一人一人が森と対話する時間となりました。
翔子さんは生物学者ユクスキュルの本の一節を朗読した後、「皆さんにとっての『わたしだけの木』を見つけ、その木と好きなように過ごしてください」と呼びかけました。
参加者は、大きな木に寄りかかったり、曲がった木の上に寝そべったり、思い思いの姿勢で木と触れ合っていました。
無言の時間を過ごしていると、「いま、ここ」にいる自分に対して自然と意識が向かいます。
自分はいま「疲れているのか」、それとも「傷ついているのか」。
自然に対して心がどう反応しているかを考えることで、自分のいまの気持ち、他者との関係について深く思いを巡らせることができました。
最後は、焚火を囲んで語り合い、感じたことを共有して終了となりました。
リトリート体験で私が得たのは、「これは誰かではなく自分のこと」という感覚でした。
森に入るのはきっかけに過ぎず、そこで向き合うのは「わたし」自身の内面です。
だからこそ、森で見つける答えは「癒し」であったり「気づき」であったり、その時の心の状態によって毎回違うのでしょう。
自分の在り方によって、森から得る答えが違う―。それがリトリートの面白さであり、気付きの本質なのかな、と感じました。
ぜひ皆さんも上ノ原を訪れて、あなただけのリトリートを体験してみてください。
「水源のリトリート」の詳細はこちら
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