上毛かるたで郷土愛をはぐくむ/「日本上毛かるた協会」設立

「上毛かるた」を世界に発信する「カルタニスト」の育成を目指し、上毛かるた研究家の田村聖志さんが2021年5月、任意団体「日本上毛かるた協会」を設立しました。

同協会のコンセプトは「上毛かるたを世界へ!」。

「上毛かるた」に代表される「郷土かるた」を通じて、世界平和を希求するという壮大な理想を掲げています。

コロナ禍で競技大会やイベントが開催できない中、まずは上毛かるたについて学び合うコミュニティーづくりに力を入れています。

「日本上毛かるた協会」の会長である田村さんに、協会設立の狙いや今後の展望を聞きました。

「日本上毛かるた協会」の会長を務める田村さん

―協会を設立した理由は?

田村さん 群馬県民は子供のころから「上毛かるた」に親しんでいるので、私たちにとっては「知っていて当たり前」の存在です。

テレビのバラエティー番組でも、群馬県出身者に街頭で「上毛かるた」の札の読み方を尋ねるシーンがありますよね。

小学校時代に暗記するほど練習するので、多くの方が「あ」と言えば「浅間のいたずら鬼押出し」と即答できるはずです。

でも札を暗唱できるというだけで、本当に「上毛かるた」を知っている、と言えるのでしょうか。

「上毛かるた」の札一枚一枚に込められた意味や歴史、先人の思いとは、実はとても深く、重いものです。

「上毛かるた」の札を深掘りするユーチューブ番組に出演しているのですが、毎回、語りつくせないほどの深い歴史やエピソードが出てきます。

札に描かれたモチーフの意味や歴史、人物について学んでこそ、真に「上毛かるた」を知ることができると思います。

加えて「上毛かるた」を巡る状況は、私たちが子供のころと大きく変わっています。

娯楽の多様化や共働き家庭の増加などで、子ども会や育成会が開く「上毛かるた」の練習に参加しない子供も増えています。

そして、このコロナ禍です。

競技大会が開催できない期間が続き、このままでは「上毛かるた」に親しむ機会がますます減ってしまうのではないかという危機感がありました。

―今後の活動方針は?

田村さん 協会設立の目的の一つは、「上毛かるた」をテーマにしたイベントの開催を支援することです。

「上毛かるた」の著作権は群馬県にあり、「日本上毛かるた協会」は利用申請を出して許可を得て活動しています。

個人の方がイベントを開催する際も、協会として協力することで交渉がスムーズになるのではないかと考えました。

ですが、現状のコロナ禍では大会やイベントの開催は難しい。

そこで、当面は「上毛かるた」に関する「学び」に力を入れていきます。

協会のLINE公式アカウントに友達申請すれば、簡単に協会員になることができます。

まずは、このコミュニティーを使って、上毛かるたに関する知識をみんなで高めていければと思います。

皆さんの素朴な疑問、例えば「上毛かるたの『い』と『ら』が赤い理由は?」などに、LINEで気軽に答えていきたいですね。

先日、上毛かるたのクイズ大会「Master of JMK」が開催されましたが、この入門編のようなクイズ大会や「上毛かるた」に親しむゲームをオンラインで開催できたらと思い描いています。

協会HPには気軽に挑戦できる「上毛かるた検定」があるので、ぜひ挑戦してみてください。

―そこまで「上毛かるた」に入れ込む動機って何ですか。

田村さん 自分自身が「上毛かるた」に救われたから、でしょうか。

仕事がうまくいかなくて時間を持て余していた時、上毛かるたゆかりの地を巡るスマホアプリ「札ッシュ!! 上毛かるたGO!」を知って遊んでみることに。

最初は「ブログのネタ作りになればいいや」くらいの気持ちでしたが、一つ一つの札の由来や成り立ちを知るうちに「郷土かるた」についてもっと深く知りたいと思うようになりました。

最近は「上毛かるた研究家」として古い上毛かるたを収集したり、絵柄の変遷を調べたりしています。

休日を利用して「上毛かるた」以外の郷土かるたのゆかりの地を回ったり。

「上毛かるた」に夢中になり過ぎて、昔付き合っていた彼女に振られたこともあるんです(笑)。

―「上毛かるた」が田村さんの人生に与えた影響は大きいですね。

田村さん 「上毛かるた」について調べるうちに「上毛かるた研究家」としてラジオに出演したり、新聞に取り上げて頂いたりする機会も増えました。

「札ッシュ!! 上毛かるたGO!」を始めたころの自分には想像もつかなかったことです。

実は、3月に開催した「上毛かるた展」がきっかけで、「上毛かるた」の初版版を譲っていただいたんですよ。

初版版の上毛かるた(田村さん所蔵)

玉村町の角田病院内で、絵札の変遷を紹介する展示をしたのですが、その新聞記事を見た読者の方から丁寧なお手紙をいただいて。

自宅で保管していた初版版を「研究に役立つなら」と譲ってくれたのです。

保存状態もよく、札の移り変わりが分かる貴重な資料です。

「上毛かるた」を核として人と人のつながりが広がる、そんな不思議な縁を感じています。

―「日本上毛かるた協会」の展望を聞かせてください。

田村さん 「上毛かるた」の「真の目的」を共有し、一緒に広めてくれる“カルタニスト”を育てていきます。

「上毛かるた」の「真の目的」―。

それは、壮大な話ですが「世界平和」だと思うのです。

そもそも「上毛かるた」が作られたのは戦後間もない1947年。

当時は、食べる物も着る物もままならない、皆が生きるのに必死な時代でした。

先の見えない時代に、子供たちが遊びながら郷土愛をはぐくむ「教材」として、上毛かるたは誕生したのです。

それから74年を経た現在も、コロナ禍をはじめとして環境問題や経済情勢など、世界中が「先の見えない」状況に陥っています。

世界規模の問題を考える上でも、まずは自分たちの住む地域を愛する心が大切だと思います。

SDGsやシビックプライドといった言葉が注目されていますが、元をたどれば同じことです。

自分の故郷を愛し、守りたいという気持ちを高めれば、争いのない平和な世界を実現できるのではないでしょか。

そのために、いずれは「世界上毛かるたサミット」や「世界上毛かるた大会」を開き、群馬が誇る「郷土かるた文化」を世界に発信するのが目標です。

―と、大きな理想を広げましたが、まずは一緒に「上毛かるた」を楽しみましょう(笑)。

楽しみながら続けられる、だから「上毛かるた」はこんなに長く県民に愛されいているのですから!

 

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