村上早さんが描く〝傷〟の銅版画

高崎市の銅版画家、村上早(さき)さんの展覧会「gone girl」が3月17日まで、長野県上田市の上田市立美術館で開かれています。黒く力強い線で描かれる少女や犬、家などのモチーフは、純粋さと残酷さという2つのイメージをはらみつつ、観る人の想像力を強く喚起してくれます。 

村上さんは高崎市出身。武蔵野美術大入学後に銅版画を始め、同大学院在学中に、若手版画家の登竜門とされる「第6回山本鼎版画大賞展」で大賞を受賞しました。まだ20代半ばですが、都内の公募展で多くの賞を受け、中国でも展覧会を開くなど、気鋭の若手銅版画家として注目されています。

山本鼎版画大賞を受賞した「息もできない」

 村上さんの作品の魅力は、その独特の世界観にあります。

黒線に縁取られたモチーフは、シンプルな構図で世界の不穏さを描いています。その不穏さは、私たちに恐れを与えますが、直視せずにはいられない魅力を秘めています。

左は「かくる」2017年
「さらう」2017年
左から「どく」2018年、「ふうせんー2」(2018年)

銅版画を作る工程にも、村上さん独自の感性があります。

子供ころに心臓の手術をしたことが、トラウマになっているという村上さん。銅を薬剤で傷つけて描くというプロセス、そのものに強い関心を抱いているそうです。

中には、うっすらと下書きのような線が見える作品もあります。これは一度描いた絵を消して、上からまた描いているためです。

何度もモチーフに挑んだ作家の心の動きを表しているようで、作品の奥行きを感じます。

「失はれる」2014年

銅版画は制作設備が大掛かりなため、村上さんのように1メートルを超える大作を手掛ける作家はとても珍しいと言えます。

大作ならではの迫力、力強い線づかいは、ぜひ目の前で味わってほしいと思います!

上田市立美術館

長野県上田市天神3-15-15 火曜定休 開館 午前9時〜午後5時

写真撮影OK